親や配偶者の介護が始まったとき、多くの人が最初にぶつかるのは「仕事を続けられるのか」という不安です。
介護は、突然・長期化・終わりが見えないという特徴を持ち、結果として「退職」という選択を迫られる人が後を絶ちません。
一方で、一度仕事を辞めてしまうと、介護を担っていた人の人生を狂わせかねないのも現実です。
そこで本記事では、介護を担うことで離職に追い込まれる構造そのものを考え、「本当は辞めなくてよかったかもしれない離職」を減らす視点を提供します。
介護離職とは何か──静かに人生を変えてしまう離職
まずは、『介護離職』とはどういうことなのかを見ていきましょう。
介護離職の定義と特徴
介護離職とは、家族(主に親・配偶者・義親・兄弟姉妹)の介護を理由に、仕事を辞めることを指します。
重要なのは、介護離職の多くが、
- 会社都合ではなく「自己都合退職」
- 突然発生し、準備期間がほぼない
- 一度辞めると元に戻りにくい
という点です。
表面上は「自分で選んだ退職」に見えますが、実際には選択肢が極端に狭められた末の決断であるケースがほとんどです。
年間約10万人が介護を理由に仕事を辞めている現実
公的調査や生命保険文化センターの解説によると、家族の介護・看護を理由に離職する人は年間約10万人規模とされています。
この数字は、
- 表に出ていない潜在的離職者
- 非正規・フリーランスの離職
- 「退職理由を介護と明示しなかった人」
を含めると、実態はさらに大きいと考えられています。
性別・年齢別の離職者数は次の表のとおりです。
「介護・看護」を理由とした離職(性別・年齢階級別)

出典:生命保険文化センター「介護離職者はどれくらい?介護離職をしないための支援制度は?」
この表を見ると、45歳~64歳の間の離職者が多くなっていることがわかります。
この年代は、子どもの教育費や住宅ローンの返済など、日常の生活資金が多くかかる年代でもあります。そんな中で仕事を辞めてしまい収入が絶たれてしまったら・・・
考えるだけでも不安になります。

なぜ介護を担うと仕事を辞めざるを得なくなるのか
それでは、なぜ介護を担うようになると仕事を辞めざるを得なくなるのかを考えてみましょう。
介護は「生活を壊すスピード」が異常に早い
介護の最大の特徴は、生活が変わるスピードが極端に速いことです。
- ある日突然の入院
- 退院後の在宅介護への移行
- 認知症の進行による見守り負担増
これらは突然やってきます。「半年後に備える」「来年考える」といった余裕を与えてくれないのです。
結果として、仕事よりも先に介護対応が“今すぐ”必要になるため、仕事の継続が後回しにされてしまいます。
要するに、介護と仕事の優先順位を付けた時に、介護>仕事となってしまうということです。
H3|介護は“時間”だけでなく“思考力”を奪う
介護は単なる肉体労働ではありません。
- 24時間、気が抜けない
- いつ電話が鳴るか分からない
- 判断ミスが命に関わることもある
こうした状況が続くと、仕事に必要な集中力・判断力が著しく低下します。
その結果、「ミスをするくらいなら辞めたほうがいい」「周囲に迷惑をかける前に退職しよう」と、自ら退路を断つ判断に追い込まれていきます。
周りから見たら、もう少し頑張ればいいのに、と思われることもあるでしょう。
でも、介護を担っている当の本人は、身体的にも精神的にもかなり追い詰められます。
そんな中、少しでも精神的に楽になりたいと考えてしまい、仕事を辞めるという選択をしてしまうのです。
職場の「無言の圧力」が退職を後押しする
介護離職の多くは、露骨なハラスメントではなく、空気によって生まれます。
- 何度も早退・欠勤することへの罪悪感
- 同僚の負担が増えていることへの自責
- 「また?」と言われることへの恐怖
これらが積み重なると、制度があっても使えず、「辞めるしかない」という心理状態になります。
このような状況は、働いている方なら容易に想像がつくのではないでしょうか。
周りの人から露骨に嫌な顔をされることもあるでしょう。
一方で、親身になって相談に乗ってくれたり、助けてくれる人もいるでしょう。
どちらにしても、人は「空気を読んで」しまいます。
そうすることで、罪悪感が生まれ「退職」という選択をしてしまうのです。
介護離職がもたらす経済的・人生的ダメージ
それでは、介護が理由で離職してしまった場合のダメージについて考えてみましょう。
収入が途絶えることの本当の怖さ
仕事を辞めた瞬間、
- 毎月の給与
- 賞与
- 社会保険の会社負担
- 将来の昇給機会
が一気に失われます。
一方で介護は、
- 医療費
- 介護サービスの自己負担
- 交通費・生活費
など、支出が増える局面にあります。
また先述のとおり、子どもの教育費や住宅ローンの返済など、多くの資金が必要になる時期であることも多いのです。
つまり介護離職は、収入が減るタイミングで支出が増えるという、最悪の経済構造を生みます。
「介護が終わった後」の人生設計が壊れる
介護は数年で終わるとは限りません。
- 5年
- 10年
- それ以上
続くことも珍しくありません。
その間に、
- キャリアは中断され
- 年齢は上がり
- 再就職市場での評価は下がる
という現実に直面します。
介護が終わったあとに、「なぜ、あのとき辞めてしまったのか」と後悔する人が多いのも、このためです。
仕事をしなくても生活費に困らないだけの資金があったり、手に職があったりして、仕事をいったん辞めても生活に困らない、または復帰が何年先となっても必ず働く場を見つけられる、という人以外は、介護で離職してしまうと介護が終わった後の人生設計が必ず壊れます。
いざ介護が終わって現実に直面してから後悔しても遅いのです。
どれだけ身体的・精神的につらくても、介護離職はお勧めしません。
介護する側の心身が壊れるリスク
仕事を辞め、介護だけの生活になると、
- 社会との接点が消える
- 会話が介護中心になる
- 自分の存在価値を見失いやすくなる
結果として、
- 介護うつ
- 慢性的な疲労
- 共倒れ
に陥るケースも少なくありません。
介護を担いながら仕事をしていると、とにかく少しでも楽になりたい、その為には仕事を辞めてしまおうという思考になってしまいがちです。
しかし、いざ仕事を辞めると、社会との接点が消えて介護中心の毎日になってしまいます。
それは、介護と仕事を両方担っていた時よりもつらい現実となってしまうかもしれません。
介護だけに専念することで、より心身が壊れてしまうリスクがあるのです。

介護離職を防ぐために「本当に」必要な制度の使い方
介護離職を防ぐために、各種制度を活用することはとても大切です。
しかし、いざ介護を担うことになってしまうと日々の生活に追われ、ゆっくりと各種制度を調べるということも難しいでしょう。
そこで、今のうちに各種制度を把握し、どういった場面でその制度を活用すれば有効なのかを理解しておくことが大切です。
介護休業・介護休暇は“入口”にすぎない
介護を担う様になると、「介護休業」や「介護休暇」を取得することが出来ます。
それぞれの制度は次の通りです。
・介護休業:まとまった時間を確保するための制度
・介護休暇:日常の介護対応のための制度
で、それぞれ役割が全く違います。それぞれの特徴は次の表のとおりです。

介護休業(通算93日)や介護休暇は、「辞めるための制度」ではなく、「考える時間を確保するための制度」です。
- 休めば解決する
- 93日で介護が終わる
わけではありません。
重要なのは、休業中に「辞めないための体制」を作ることです。
「限界だから辞める」前に、この2つをどう使うかで人生は大きく変わるかもしれません。
介護保険サービスは「限界になる前」に使う
多くの人が、「まだ使うほどじゃない」「家族で何とかできる」と考え、介護保険サービスの利用を遅らせます。
しかしこれは、介護離職への最短ルートです。
- デイサービス
- 訪問介護
- ショートステイ
は、「限界になってから」ではなく、仕事を守るために使うものです。
日本では40歳を過ぎると全員が公的介護保険の保険料を支払います。
これまで保険料を支払ってきたのですから、介護保険サービスの利用を遠慮することはありません。
とにかく介護離職をしなくて済むよう、使える制度はなんでも使うようにすることが大切です。

介護で仕事を辞めないために、今すぐ考えるべきこと
どんなにつらくても、介護離職はするべきではありません。介護離職をしないために考えるべきことは次のとおりです。
「辞めない前提」で介護を設計する
介護が始まったときにまずやるべきことは、
- 退職を考えることではない
- 「どうすれば仕事を続けられるか」を考えること
です。
介護は、辞めてから考えると詰みやすい問題です。
介護に追われると、少しでも楽になりたいという気持ちから、まずは一旦仕事を辞めてしまおう、と考えがちです。
でもいざ仕事を辞めてしまうと、その後我に返っても、もう遅いのです。
辞めてから考えるのではなく、辞める前にしっかりと考えましょう。
一人で抱え込まないことが最大の対策
介護離職の本質的な原因は、「全部自分で背負おうとすること」です。
- 家族
- 職場
- ケアマネジャー
- 制度
- 外部サービス
を使うことは、甘えではなく戦略です。
責任感の強い人ほど、自分一人で抱え込んでしまいがちです。
介護は長期戦かつチーム戦です。とにかく周りの人に相談して、解決策を探りましょう。
介護離職は「避けられる離職」である
介護離職は、
- 個人の努力不足
- 覚悟の問題
ではありません。
情報不足と孤立が生む、構造的な離職です。
「介護=退職」ではなく、「介護しながら働き続ける」ための選択肢があることを、ぜひ知っておいてください。
介護が辛いという理由では、絶対に退職してはいけません。
身体的・肉体的に追いつめられると、目先の問題から逃げたくなるのは人間の性です。
少しでも楽になりたい=まずは一旦仕事を辞めよう、と思う気持ちはとてもよくわかります。
しかし、冷静に考えるとそれは得策ではないことが分かります。
とにかく一人で抱え込まず、使える制度を駆使し、離職しなくて済む方法を探っていきましょう。
介護はお金がかかります。逆にいうと、お金があれば選択肢が増えるのです。
今のうちに、民間の介護保険への加入も検討してみることをお勧めします。
どんな介護保険に加入すればいいのか迷った際は、数多くの保険を扱っていて、相談は無料で受けてもらえる次のようなところに聞いてみるのも一つの手かもしれません。
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