
この前会った友人が、親の介護で毎日大変って言っていて・・・

日本は高齢化が進んでいるので、親の介護をしている人も増えているわよね。

両親にはここまで育ててもらって感謝してはいるんですけど、そもそも親の介護は子どもの義務なんですか?

初子さんみたいに、ご両親に育ててもらったことを感謝している人はたくさんいると思うけど、そうじゃない人も中にはいるわよね。

はい、もし幼少期に嫌な思い出があったりしても、親が介護状態になったら子どもは介護しないといけないのかが気になって・・・

それでは今回は、親の介護は子どもの義務なのかについて解説するわね。
親が高齢になってくると「親の介護」について考えなくてはいけなくなってきます。
これまで親に大切に育てられてきた人にとっては、親を介護するのは当然と考える人も多いと思います。
一方で、幼少期に親からひどい仕打ちを受けてきた人にとっては、なんで自分がそんな親の介護をしないといけないの?と思う人もいるかもしれません。
また、今現在おかれている現状から、親の介護をしたくてもできない人もいるでしょう。
そこで今回は、親の介護は義務なのか、について解説します。
何事も事が起きてからではなく、事前の準備が大切です。親の介護なんてまだまだ先と思う方も、今できる準備をしておくことが後々のトラブルを避けるコツとなるでしょう。
この記事を読むことで、事前に何をしておけばいいかのヒントを得てもらえると嬉しいです。

親の介護は放棄できる?
結論からいうと、子どもが親の介護を放棄することはできないと法律に定められています。
とはいえ、置かれている現状や、これまでの親子関係からそんなの納得いかないという人も多いのではないでしょうか。
それでは、なぜ親の介護が義務なのかをみていきましょう。
なんで親の介護は放棄できないの?
民法877条第1項に、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているのです。さらに、相続放棄のように放棄する手続きが存在しないので、法律上、親の介護を放棄することはできないのです。
嫁(婿)にも介護の義務はある?
それでは親の介護の義務がある人は具体的に誰なのかを確認しましょう。

この図から分かるとおり、要介護者の子供の配偶者、つまりお嫁さんやお婿さんには扶養義務は無いのです。
「俺の親なんだからお前が介護するのは当然だろ!」と言われた場合、「介護する義務があるのはあなたであって、私ではない!」と言えるんです!
これを知っているかどうかで、自分の身を守ることができそうですね。
長男(長女)だから親の介護をしないといけない?
扶養義務者に優先順位はありません。要するに、要介護者に3人の子どもがいる場合、3人ともが平等に介護の義務を負います。
同居の有無も、扶養義務の重さに関係はありません。
「お兄ちゃんがお母さんと同居してるんだから、お母さんの介護はお兄ちゃんがするのが当然でしょ!」と言われた場合、「同居してるからって、長男だからって、そんなの関係ないって知らなかった?」と言えるんです。
同居していたら介護しないといけないと分かっていたら、そもそも同居をためらってしまうこともありそうですよね。でも、同居の有無は介護の義務とは関係ないので、親が健康なうちは安心して同居することができるんです。

扶養義務って具体的に何が義務なの?
一言で「扶養義務」と言っても、具体的に何をしなくてはいけないのか、イメージがつかないですよね。
それでは「扶養義務」というのは一体何なのかをみていきましょう。
「扶養義務」って具体的に何をしないといけないの?
親の介護における扶養義務は「生活扶助義務」です。
これは、実際の介護を担わなくてはいけないわけではなく、扶養義務者の生活は通常通り送り、そのうえで「余力の範囲内」で経済的に扶養する義務のことをいいます。
極論、体や時間を使っての「介護」は行わなくても、お金だけ出せばいいということです。
経済的に少し余裕がある人は、少しほっとしたのではないでしょうか。
実際の介護を担うとなると、かなりの時間と体力が削られてしまいます。でも、扶養義務は経済的に扶養すればそれで足りるとなると、経済的な負担はかかるものの、これまで通りの生活を維持することができるわけです。

親の介護を放棄したらどうなる?
親の介護をしたくても様々な理由から行うのが難しい人、そもそも親の介護はしたくない人、様々な理由から介護をできない、したくない人はたくさんいると思います。
では、先述の義務を果たさずに親の介護を放棄したらどうなるのでしょうか?
親の介護を放棄すると罪に問われる可能性がある
扶養義務を果たさず親の介護を放棄すると、最悪の場合、罪に問われる可能性があります。
介護を放棄して、万が一親が死亡したら、保護責任者遺棄致死罪となり3年以上20年以下の懲役が科せられる可能性があります。
例えば、介助がないと生活できないと分かっている中で、長期間自宅に置き去りにした場合や、食事を与えなかったり、必要な治療を受けさせなかったりして親を死亡させた場合がこれにあたります。
明確な殺意がなかったとしても、このままにしておけば死んでしまうかもしれないと自覚している場合もこれにあたります。
また、介護を放棄して親が病気に罹ったりケガをしてしまったりしたら、保護責任者遺棄致傷罪となり3か月以上15年以下の懲役が科せられる可能性があります。
いずれにしても、明確な意思を持って親の介護を放棄してしまうと、罪に問われる可能性があるので注意が必要です。

親の介護をしたくなかったら縁を切ればいい?
幼少期に親から虐待を受けてきたなどの理由で、どうしても親の介護をしたくない人もいると思います。
そんな時は、親との縁を切れば介護をしなくてもよくなるのでしょうか?
法的には縁は切れない
残念ながら法的に縁を切る方法はありません。親と戸籍を分離したり、他の人の養子になったとしても、親子関係を解消する法的な拘束力はないのです。
その為、親の介護を放棄すると先述のとおり、刑事罰を受ける可能性があるので注意が必要です。

親の介護費用は子どもが払わなくちゃいけないの?
扶養義務があるからといって、親の介護費用は全額子どもが支払わなくてはいけないのでしょうか。
さすがにそれは理不尽ですよね。
介護費用は、まずは親の財産でまかなうことが原則となっています。そのうえで不足が生じた場合に、子どもが負担することになっています。
それでは実際、親に介護が必要となった場合、どれぐらいの介護費用が必要となるのかを見ていきましょう。
介護費用っていくらぐらい必要?
生命保険文化センターのデータによると、介護に要した費用は次のとおりとなっています。

出典:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度
また、介護期間は次のとおりとなっています。

出典:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度
このことから、介護にかかる費用は一時的なものが74万円、そして毎月かかるものが8.3万円、それが61.1か月となると合計で約581万円必要となります。
これに加えて、毎日の生活費もかかるので、年金暮らしの親の資金だけでは足りなくなることも考えられます。
子どもが払わなくてはいけないのは「余力の範囲内」
親の介護の義務があるとはいえ、まずは自分の生活が普通に送れなくてはいけません。
よって、親の介護費用を負担する場合は「余力の範囲内」でいいとされています。
「余力の範囲内」って?と思われる方もいるかもしれませんが、これは収入や置かれている状況によってということになります。

親の介護で揉めない為には?
ここまで、親の介護は放棄できないということを解説してきました。
それでは、万が一親が介護状態になってしまった場合に、介護の義務を負っている人の間で揉めない為にはどうしたらいいのかを見ていきましょう。
介護の方針を決めておく
親が一人で生活できなくなった時のことについて、親の意思を確認しておくことはもちろんですが、兄弟間でも方針を決めておくことが大切です。
兄弟の一人が同居していると、同居家族が面倒を見るのが当然、という暗黙の了解ができてしまっていることが多いですが、先述のとおり、同居家族のみに扶養の義務があるわけではありません。
また、同居しているからといって、仕事をしていれば介護に充てられる時間も限られます。
親が要介護状態になったらどうするのかは、あらかじめ関係者全員で方針を決めておいた方がいいでしょう。
具体的に何を決めておけばいい?
それでは具体的には、事前に何を決めておけばいいのでしょうか。
まずは次のことを決めておきましょう。
・在宅で介護するか、施設に入居するか
・施設に入居する場合は、どんな状態になったら施設に入居するか
・在宅で介護する場合は誰が主に介護するか
・在宅で介護する場合は主に介護を担う人以外の関わりはどうするか
親の財産を把握しておく
たとえ親子であっても、お互いの財産をオープンにしているケースはそんなに多くないと思います。
しかし、いざ介護が必要になった場合に、どういう選択肢をとれるのかは財産次第になってきます。
また、先述のとおり、親の介護費用はまずは親の財産から拠出することになっています。
そろそろ介護について考えてもいい年齢に親がなってきた場合には、できるだけ親の財産を把握しておくようにしましょう。
親が受け取れる年金額を把握しておくことも大切です。
兄弟間でそれぞれの分担を話し合っておく
たとえ兄弟であっても、それぞれの状況は異なります。
独身の兄弟もいれば、小さい子どもがいる兄弟もいるでしょう。
経済的にも、少し余裕がある兄弟もいれば、日々の生活でいっぱいいっぱいの兄弟もいるでしょう。
そこでお互いに「できること」と「できないこと」をハッキリと表明しておくことが大切です。
例えば、経済的な負担はできるけれども、日常生活のサポートはできないとか、逆に、病院への付き添いなどの日常生活のサポートはできるけれども、経済的なサポートはできないなど、事前に「できること」と「できないこと」はハッキリと表明し、親が万が一介護状態になってしまった際に、どういう分担をするのかを決めておきましょう。
公的介護サービスなどの概要を知っておく
介護は自分たちだけで行う必要はありません。40歳を過ぎれば公的の介護保険制度にも強制的に加入しています。
でもいざ親が介護状態になった時に、どんなサービスが利用できるのかを把握していないと、せっかく利用できるサービスも利用できません。
そこで、具体的にどんな公的サービスがあるのかを事前に知っておくことが大切です。

親の介護をしたくない時はどうしたらいい?
まずは「地域包括支援センター」などの行政機関に相談してみましょう。
ここまで解説してきた通り、親の介護は子どもの義務となっています。その為、何もせずに介護を放棄すると罪に問われかねません。
そこでまずは地域包括支援センターなどの行政機関に、実情を相談してみることをおすすめします。
また、介護の義務は「扶養義務」です。子どもが経済的に困窮している場合は強制されないことになっています。
さらには、経済的な支援を行うことで義務は果たされることになるので、直接の介護を強制されることもありません。
しかしながら親を介護することは義務となっていることから、親の介護から逃れることはなかなか難しいといえるでしょう。
その為、親が介護状態になる前に対策を打っておくことが大切です。親の介護なんてまだまだ先と思う方も、親の介護はいつ必要になるか分かりません。できるだけ早くから対策を打っておくことが自分の身を守ることになるのではないでしょうか。
また、公的介護保険制度だけでは、十分な介護を受けることはできません。まずは公的介護保険制度の内容を把握したうえで、民間の介護保険にも親に加入してもらっておいた方がいいでしょう。
親の介護について、自分から親に切り出すのはなかなか勇気がいるかもしれません。しかし、自分の身を守るだけでなく、親にも不自由な思いをさせない為には、事前の話し合いや、準備がともて大切です。
この記事を読んだあなたは、まだ間に合うかもしれません。ぜひ一度、親と介護について話し合う機会を設けてみてください。